この記事の要約

九月の風が少しずつ涼しさを運んできた朝、新しく用意した無地のノートを開きました。ペンを持った手が、無意識のうちに最初のページを飛ばして、二ページ目から書き始めていることに気がつきます。完璧な始まりを求めて緊張してしまう自分と、白紙をクッションにすることで安心を得ようとする小さな癖。雪国の新雪に最初の足跡をつけるのを躊躇った幼い頃の記憶とともに、自分なりのペースで物事を始めるための、ささやかな儀式について綴っています。

真新しいノートの最初のページをめくる朝

朝晩の空気に、ほんのわずかな冷たさが混じるようになりました。窓を開けると、庭の草花を揺らす風の音が、夏の間とは少し違う、軽やかな響きを持っています。朝露に濡れた葉がこすれ合う微かな音に耳を傾けながら、お湯を沸かし、温かい紅茶を淹れるのが最近の私の日課です。カップから立ち昇る湯気を見つめていると、せわしなく過ぎていく毎日の中で、ほんの少しだけ自分の輪郭を取り戻せるような気がします。

花本人と「真新しいノートの一枚目をめくる朝と、空白がくれる小さな許容」の内容を表すブログ挿絵
花本人の雰囲気と記事の情景

そんな秋の気配を感じながら、机の上に新しい無地のノートを置きました。これまで使っていたものが最後のページまで埋まり、今日から新しい一冊を下ろすことにしたのです。選んだのは、落ち着いた深い緑色の布張りの表紙。そっと撫でると、指先にざらりとした心地よい感触が伝わってきます。真新しい紙の匂いを吸い込み、製本されたばかりの硬い背表紙を開くとき、微かに鳴る紙のきしむ音が、新しい季節の始まりを告げているように感じられました。

お気に入りの万年筆のキャップを外し、さあ書き始めようとしたとき。私の手はごく自然な動作で、一枚目の紙をペラリとめくっていました。そして、見開きになった左側のページから、今日の日付を書き入れていたのです。何の迷いもなく、流れるような手つきでした。

書き終えてから、ふと自分の手元を見つめて、おかしなことに気がつきました。私はいつも、新しいノートや手帳を使うとき、必ず最初のページを飛ばして書き始めているのです。これまで当たり前のようにやってきた行動ですが、立ち止まって考えてみると、とても不思議な癖に思えました。

新雪に足跡をつけるような躊躇い

なぜ、一枚目を白紙のまま残してしまうのでしょう。その理由を探ってみると、私の中に潜む「始まり」に対する小さな力みが見えてきました。新しいノートの一ページ目は、とても特別で、完璧な場所のように感じられます。そこに書く文字は美しくなければならない。絶対に書き損じてはいけない。もし間違えてしまったら、この一冊全体が台無しになってしまうのではないか。そんな大げさなプレッシャーが、ペンを持つ指先を少しだけ強張らせてしまうのです。

その感覚は、故郷である長岡の冬の情景を思い起こさせます。夜の間にしんしんと降り積もった、眩しいほどの新雪。朝起きて外に出たとき、一面に広がる純白のキャンバスに、自分の長靴で最初の足跡をつけるのが、幼い頃の私はどうにも苦手でした。

美しい雪面を自分の足で崩してしまうことへの躊躇い。誰かが先に歩いて轍を作ってくれていれば、安心してその後ろをついていくことができるのに。誰も踏み入れていない場所に一番乗りで足を踏み出すのは、いつだって勇気のいることでした。深く積もった雪に足を取られるかもしれないという恐れも相まって、私はいつも、誰かが歩きやすく踏み固めてくれた道を探して歩いていたように思います。

ノートの一ページ目をめくってしまうのも、あの新雪を前にしたときのすくむような気持ちと、どこか似ているのかもしれません。真っ白な紙面を前にすると、まるで誰も歩いていない雪道に立たされているような、そわそわとした落ち着かなさを感じてしまうのです。

何もない空間が作ってくれる小さな緩衝地帯

ふと、看護師として病院で働いていた頃の記憶が蘇りました。年度が替わり、新しい申し送り用のファイルが用意されると、その一番最初のページには、いつも先輩が定規を当てて真っ直ぐな線を引き、見事な字で部署名や注意事項を書き込んでくれていました。それは、これから一年間続く過酷な現場の記録を、しっかりと支えてくれる太い柱のような文字でした。

花本人と「真新しいノートの一枚目をめくる朝と、空白がくれる小さな許容」の内容を表すブログ挿絵
花が記事の中心的な場面を振り返る一枚

私は、その整然とした文字の次のページから、日々の慌ただしい記録を書き連ねていくのが好きでした。誰かがしっかりと「始まり」を引き受けてくれた後なら、自分の書く文字が少し乱れていても、あるいは内容に迷いがあっても、安心して書き進めることができたからです。先輩の書いた一ページ目があるからこそ、私たちは二ページ目以降で、泥臭くも懸命に日々の業務に向き合うことができたのだと思います。

今の私の机の上には、一ページ目を綺麗に飾ってくれる人は誰もいません。自分のペースで歩み始めた今、すべてを自分で始めなければならない場面が増えました。だからこそ、私は無意識のうちに、一枚目の紙をめくって「何もない空間」を作り出しているのだと気づきました。

表紙という外側の世界と、自分の内なる思考を書き出す場所の間に、ワンクッションの白紙を挟み込む。それは、完璧に始められない自分を守り、心にゆとりを持たせるための、私なりの防衛策だったのです。誰かの轍を探す代わりに、自ら空白を作り出すことで、歩き出しやすい環境を整えていたのかもしれません。

不格好な二ページ目から始まる日常

最初のページを飛ばすことは、決して逃げではなく、私が私らしく歩き出すための小さな儀式なのだと、今なら素直に認めることができます。立派なタイトルなんてなくてもいい。最初から完璧な文字を並べられなくても構わない。一枚目の白紙が、「ここからなら、肩の力を抜いていいよ」と、優しく語りかけてくれているような気がします。

見開きの左側に書いた今日の日付は、少し右上がりで、決して美しいとは言えないけれど、とても私らしい、いつもの字でした。その不格好な文字を見つめていると、なんだかとても愛おしい気持ちが込み上げてきます。飾らない自分の現在地を、そのまま受け入れてもらえたような安心感がありました。一ページ目を飛ばしたことで、私は私自身の不完全さを許すことができたのです。

これからこのノートには、日々のささいな出来事や、ふと思い浮かんだ考え、心の中で揺れ動いた感情などが、少しずつ書き溜められていくのでしょう。時には迷いながら書く文字もあるでしょうし、後から見返して恥ずかしくなるような走り書きもあるはずです。そのすべてが、この不格好な二ページ目から始まっていくのです。

窓から差し込む朝の光が、ノートの紙面を明るく照らしています。私は万年筆を置き、飛ばしてしまった一枚目の白紙をそっと指先で撫でました。何ひとつ書かれていないそのページが、これから紡がれていく日々の記録を、柔らかく包み込んでくれるような気がした朝です。

花

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穏やかで包容力がある。相手の話をじっくり聞き、決して否定しない。悩みを抱える人に寄り添い、前向きな言葉をかける。

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