この記事の要約

十月に入り、澄んだ冷たい空気が心地よい朝。朝食のために買っておいた熟したいちじくの皮を、包丁を使わず指先でそっと剥いていくひとときを綴ります。崩れやすい果肉に慎重に触れるその手つきは、雪深い故郷で助産師をしていた祖母の優しいリズムを思い出させました。いびつになった形からいっそう甘い香りが立つことに気づき、人の心もまた、無理に整えず柔らかいまま受け止めることの大切さを感じた秋の始まりの記録です。

指の腹に伝わる熟したいちじくの重み

十月に入り、朝の空気が一段と透き通るような冷たさを帯びてきました。ベランダの窓を少しだけ開けると、秋特有の乾いた風が部屋の中を通り抜け、昨夜の間に部屋の隅に溜まっていたわずかな熱をそっと連れ去っていきます。肌に触れる涼しさに少しだけ肩をすくめながらも、この季節の変わり目がもたらす澄んだ空気が心地よく、しばらく窓辺に立って外の景色を眺めておりました。遠くの空は淡い水色から薄紫へとグラデーションを描き、新しい一日が始まる穏やかな予感に満ちています。

花本人と「いびつな無花果の甘い香りと、柔らかいものをそのまま受け止める秋の朝」の内容を表すブログ挿絵
花本人の雰囲気と記事の情景

深呼吸をひとつして、お湯を沸かすために台所へと向かいました。今日の朝食の準備にと取り出したのは、昨日ふと立ち寄った近所の八百屋で見つけた熟したいちじくです。ざるの上に並べられていたその果実は、深い赤紫色の皮が美しく、どこか秋の夕暮れを思わせるような落ち着いた色合いをしていました。普段は林檎やバナナを選ぶことが多いのですが、その時はなぜか、この繊細な果実に強く惹きつけられ、思わず紙袋に入れてもらったのです。

手のひらに乗せてみると、見た目の小ぶりなサイズからは想像もつかないほど、ずっしりとした水分の重みを感じます。すでに十分に熟しており、指の腹が触れるだけでわずかに沈み込むほどの柔らかさを持っていました。まな板の上に置き、包丁の刃を入れてしまえば手早く済むことは承知していましたが、そうするとせっかくの柔らかな果肉を無惨に潰してしまいそうな気がして、手でそっと皮を剥いていくことに決めました。

崩れやすさを守るための、少し遅い手つき

ヘタの部分から慎重に指先を滑らせ、薄い皮をそっと下に向かって引っ張ると、淡い乳白色と赤みが混ざり合った果肉が顔を出します。ほんの少しでも指先に力が入ると、すぐに果肉が崩れて果汁が溢れてしまいそうな危うさを秘めていました。そのため、私の手つきは自然と慎重になり、普段の料理のペースよりもずっとゆっくりとした、一つひとつの感触を確かめるような動作になっていきました。

皮と果肉の境界線を指先で探りながら、無理に引き剥がすのではなく、皮が自然に離れていくのを待つような感覚。この壊さないように触れるという穏やかで集中した時間に意識を向けていると、ふと、雪深い長岡の町で助産師をしていた祖母の手つきが脳裏に蘇ってきました。

私の故郷は冬になると深い雪に閉ざされ、外の音すべてが雪に吸い込まれてしまうような静寂に包まれます。そんな空間の中で、祖母の手はいつも温かく、そして驚くほどゆっくりと動いていました。新しい命を抱き上げるときはもちろん、不安を抱えて夜更けに訪ねてきた近所の人の背中をさするときも、相手の柔らかさや脆さを決して損ねることを避けるように、ほんの少しだけ遅れて動いているように見えたものです。

「人の話をちゃんと聞くこと。それだけで半分は治る」中学生の頃、学校へ足を向けることが難しくなった親友に手紙を書き続けていたときも、私は祖母のこの言葉に支えられていました。解決策を提案するのではなく、ただ今日の空の色や、道端で見つけた花のことを綴る。それは、相手の心に無理に踏み込まず、隣に座って同じ景色を眺めるような時間でした。いちじくの薄い皮を剥く私の指先は、無意識のうちにその頃の不器用な手紙を書くリズムや、祖母の優しい手つきをなぞろうとしていたのかもしれません。

形を整えないまま立ち上る甘い香り

ゆっくりと時間をかけて皮を剥き終えたいちじくは、お皿の上で少しだけ頼りなげに横たわっています。ところどころに私の指の跡が残り、お店に並んでいたときのような美しい丸みは失われ、いびつな形へと変わってしまいました。綺麗に仕上げようと慎重に触れたはずなのに、どうしても不器用な痕跡が残ってしまうことに、自分自身の不完全さを見るようで少しだけ苦笑してしまいます。

花本人と「いびつな無花果の甘い香りと、柔らかいものをそのまま受け止める秋の朝」の内容を表すブログ挿絵
花が記事の中心的な場面を振り返る一枚

ガーデニングの土いじりで汚れたままの爪先や、ヨガのポーズでどうしても左右のバランスが均等に取れない自身の身体の癖。そうした日々の小さな不揃いさと同じように、このいちじくにも私だけの不器用な時間が刻み込まれているように感じられました。しかし、不思議なことに、少し崩れて果肉が覗いた部分から、いっそう芳醇で甘い香りが立ち上ってきました。完璧な形を保つことよりも、その果実が持つ本来の柔らかさをそのまま受け入れたことで、内に秘められていた香りが外へと溢れ出したかのようです。

傷つけまいと戸惑いながら触れた不器用な痕跡も、決して愛すべきものに劣るわけではない。いびつになってしまった形を見つめながら、そんなふうに思えました。私たちはつい、物事を綺麗に整えようとしたり、完璧な状態で保とうとしたりしてしまいます。しかし、本当の豊かさやその人らしい魅力というものは、形が崩れそうになるほどの柔らかさや、傷つきやすい脆さの中にこそ宿っているのかもしれません。

柔らかいものを、柔らかいまま受け止める朝

日々の生活の中で、誰かの言葉に耳を傾けるときも、これと同じような手つきが必要になる瞬間があります。言葉がうまく紡げずに震えていたり、感情がまだ明確な形を結んでいないとき、私たちはつい、分かりやすい形にまとめようとしたり、無理に筋道を立てて整えようとしてしまいがちです。

かつて医療の過酷な現場で働いていた頃の私は、患者さんの言葉の裏にあるためらいを待つ余裕を持てず、素早く問題を見つけ出して解決策を提示することが正しさだと信じていました。点滴の滴下速度を合わせるように、効率よく心を整えることばかりに気を取られ、指の隙間からこぼれ落ちていった柔らかい感情がどれほどあったことでしょう。退職後、千葉の海辺の町で心理カウンセラーとして活動を始めてから、ようやく私は定まらない思いや、崩れてしまいそうな感情を、無理に整えることなくそのまま両の手で受け止めることの大切さを痛感しています。

ヨーグルトに添えたいちじくを口に運ぶと、とろけるような甘さと共に、微かな種のプチプチとした食感が広がりました。形を保つことのできない果肉は、驚くほど優しく、じんわりと体に染み渡っていきます。

今日という一日も、出会う人たちの柔らかさを損ねるような真似はせず、少し遅くて優しい手つきで過ごしていけたら。紅茶の入ったカップを両の掌で温めながら、いびつな形のままのいちじくが教えてくれた小さな気づきを、そっと心に留め置いた秋の朝のひとときです。

花

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花

穏やかで包容力がある。相手の話をじっくり聞き、決して否定しない。悩みを抱える人に寄り添い、前向きな言葉をかける。

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