この記事の要約
毎朝5時のダンス練習。いつもなら元気なアイドルソングをかけるところ、ふとSNSで見かけた大人っぽいR&Bの曲に合わせて踊ってみた日の記録です。音を待つ動きの難しさと、鏡に映る自分のぎこちなさに笑ってしまいましたが、すぐには好きか嫌いか決められない「保留の箱」を持っておくのも悪くないと気づけた、不思議で新しい朝の感覚を綴りました。
予定外のプレイリストと、半拍遅れるビート
朝5時、カーテンの隙間からほんの少しだけ白み始めた空を横目に、ヨガマットの上で深く息を吐き出す。ひんやりとしたフローリングの感触が、まだ半分眠っている身体を少しずつ現実へと引き戻してくれます。いつものルーティンなら、ここで一番テンションの上がる、弾けるようなアイドルソングをかけて、一気に心のスイッチを入れる時間。だけど今日は、スピーカーに繋いだスマホの画面をスクロールする指が、ふと別の場所で止まってしまいました。

昨日の夜、SNSのおすすめタイムラインに流れてきた海外のダンサーさんの動画。ゆったりとしたR&Bの曲に乗せて、まるで水の中を泳ぐようにしなやかに、そしてどこか気怠げに踊る姿が、なぜかずっと頭の片隅に引っかかっていたんです。普段の私なら「わあ、かっこいいな!」と画面越しに拍手して終わるような、自分の目指すキラキラしたステージとは対極にある大人っぽいジャンル。でも、その音の余韻をすくい取るような滑らかな動きに、無性に惹かれる私がいました。
思い切って、その曲を再生してみる。部屋の空気が、いつもとは違う湿度を帯びた気がしました。ドクン、ドクンと床を這うように響く低いベース音。いつもの元気な「ワン、ツー、スリー、フォー!」という前掛かりで弾むカウントとは全く違う、音と音の間にたっぷりと重たい隙間があるリズム。半拍遅れて乗っかるようなそのビートに、私の身体はまだどう反応していいか分からず、ただ音楽の波紋が部屋いっぱいに広がるのをじっと聞いていました。
見よう見まねのウェーブと鏡の前のちぐはぐさ
音楽の波に背中を押されるように立ち上がり、見よう見まねで動画のダンサーさんがやっていた動きに挑戦してみます。指先から手首、肘、そして肩へと、順番に波を打たせるようなウェーブ。重心をぐっと低く落として、少しだけ伏し目がちに、アンニュイな表情を作ってみる。
でも、壁一面に貼られた大きな鏡に映った自分の姿を見て、思わず吹き出してしまいました。滑らかな水の波紋になるはずの腕は、まるでカクカクと動くブリキのおもちゃみたい。指先までピンと伸ばして元気いっぱいに飛び跳ねたり、大きな手振りでファンのみんなにアピールしたりする筋肉はしっかり育っているのに、音をあえて「待つ」とか、身体の力を「抜く」という動きが、こんなにも難しいなんて想像もしていませんでした。
一生懸命に大人っぽく振る舞おうとすればするほど、どこか隙だらけでちぐはぐな自分が浮き彫りになります。普段の練習なら、うまくできないステップがあると「次こそ絶対に決める!」って悔しさがバネになるのに、今日はなんだかそのぎこちなさすら可笑しくて、鏡の前の自分と目が合うたびにクスッと笑ってしまう。全く知らない国の言葉をいきなり話そうとして、盛大に噛んでしまったような、そんな不思議な照れくささが込み上げてきました。
新雪を踏みしめるときの「わからない」時間
この新しいダンスのジャンルが自分に合っているのかと言われたら、たぶん今は違います。じゃあ、楽しくないから嫌いかと聞かれたら、それも少し違う気がする。自分の中で「大好き!」というキラキラした箱にも、「これは私には向いていない」という箱にも、すぐには振り分けられない、宙ぶらりんな状態。

でも、この「白黒つけられない、しっくりこない感覚」って、どこかで味わったことがある気がする。記憶の糸を辿って思い出したのは、地元の北海道で、一晩中降り積もった誰も足を踏み入れていないふかふかの新雪を前にしたときの感覚でした。
真っ白な雪のカーペットに最初の一歩を踏み出すとき、足がどこまで沈み込むか、その下にあるのが平らなアスファルトなのか、それとも小さな段差なのか、すぐにはわかりません。だから、慎重に、少しだけ体重をかけながら足の裏で地面を探っていく。あのときの、ちょっとした緊張感と、何が起こるかわからない好奇心が混ざり合ったドキドキに、今のこの重たいステップを踏む感覚がすごく似ている。すぐに答えを出さなくていい、ただ「探っている」だけの時間が、なんだかとても心地よく感じられました。
保留の箱で熟成させる、新しい朝の魔法
世の中には、すぐに好き嫌いを決めなくてもいいことがある。そんな当たり前のことに気づけたのは、今日の大きな収穫かもしれません。「これ、私に合うのかな?」という疑問符をつけたまま、とりあえず自分の中にある保留の箱に入れておく。それは決して逃げではなくて、自分の中に新しい表現の引き出しを作るための、大切な準備期間なんだと思います。
もし今度の配信でファンのみんなに「最近、すっごく大人っぽいダンスを練習してるんだ!」って報告したら、「えー、想像つかない!」って笑われちゃうかも。でも、いつか私が歌って踊る大きなステージで、この保留の箱の中で熟成されたステップが、思いがけないスパイスになってくれる日が来るかもしれない。そんなふうに想像を膨らませると、ちぐはぐだった鏡の中の自分が、少しだけ頼もしく見えてきました。
もう一度だけ、ブリキのおもちゃみたいなウェーブを真剣な顔で練習してから、いつものとびきり明るい曲にプレイリストを切り替えます。パーンと弾むようなビートに合わせてステップを踏み出すと、足取りがいつもよりほんの少しだけ、しなやかに床を捉えた気がしました。答えを急がない魔法をひとつ覚えた、そんな新しい朝の始まりです。
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