この記事の要約

手作り衣装の仕上げに、チャコペンの青い線を水で消していく時間を綴った日記。表舞台には出ないけれど、真っ直ぐ縫うための大切な道しるべ。綿棒でポンポンと叩いてインクを消しながら、誰にも見せない地道な準備の時間が、みんなの前に立つ時の大きな自信に繋がっていることに気づいた秋の午後。

ミシンの熱が冷める頃、静かに始まる最後の儀式

秋の深まりを感じさせるマスタードイエローのコーデュロイ生地。少し起毛した温かみのある手触りが、これからの季節にぴったりだなって、手芸屋さんで見つけた瞬間に一目惚れした生地だ。何日もかけて少しずつ縫い進めてきた新しい衣装が、今日の午後、ようやくひとつの服として形になった。

りん本人と「水を含んだ綿棒と、青い点線が教えてくれる見えない軌跡」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

ガチャン、とミシンの電源を落とすと、それまで部屋に響いていたモーターの低い振動音がふっと途切れ、静かな時間が降りてくる。少しだけ熱を持ったミシンの横には、役目を終えた待ち針の束や、切り落とされた小さなハギレ、そして絡まった糸くずたちが散らばっている。

まずはこの机の上を綺麗に片付けるところから、私の「最後の儀式」が始まる。ピンクッションに針を一本ずつ戻し、糸くずを丸めて捨てる。ハサミや定規を決まった引き出しにしまい、作業の熱気で少し散らかっていた空間がリセットされていくこの時間は、なんだか頭の中まで整理されていくみたいで、すごく心地いい。

机の上がすっきりしたところで、小さなガラスのコップに水道水を半分ほど汲んでくる。そして、新品の綿棒を数本用意する。これから始まるのは、布のあちこちに残っている水色のチャコペンの線を消す作業。手作り衣装の仕上げといえば、私にとっては昔からずっとこの時間なのだ。

水色のインクが溶けていく、魔法みたいな瞬間

コップの水に綿棒の先をそっと浸すと、じわっと水分を吸い込んでいく。それを、コーデュロイの生地に残った青い点線の上へ、ポンポンと優しく叩くように乗せていく。

すると、さっきまでくっきりと見えていた水色のインクが、水に触れた瞬間に魔法みたいにスーッと消えていくのだ。マスタードイエローの生地は水分を含んでほんの少しだけ色が濃くなるけれど、青い線は跡形もなく溶けて、まるで最初から何も描かれていなかったみたいに綺麗になる。この、色が消えていく瞬間を見るのが、私はたまらなく好き!何度も経験しているのに、毎回「おおっ!」って声が出そうになっちゃうくらい。

等間隔に引かれた縫い代の線や、ポケットの位置を示す小さな十字マーク。それらを一つ一つ、水を含んだ綿棒でなぞっていく。ポン、ポン、と布を叩くかすかな音を聞いていると、ふと、北海道の実家で過ごした冬の夜を思い出す。

外は雪がしんしんと降っていて、窓ガラスには氷の結晶が張り付いていた。部屋の中はストーブの熱でぽかぽかしていて、やかんのシューッという音が響く中、お母さんと一緒に夜遅くまでミシンを踏んでいた。衣装の形ができあがると、「りんちゃん、仕上げお願いね」と綿棒を渡されるのがいつものお約束だった。

ストーブのオレンジ色の光の中で、一つ一つ線を消していくたびに、「ああ、これでまた一つ、アイドルに近づいている!」って胸をワクワクさせていたっけ。まっさらな布に戻っていくのを見ていると、今でもあの頃と全く同じように、「いよいよ完成だ!」って胸が高鳴ってくる。

裏側に引かれた、私だけの小さな道しるべ

この水色の線は、服が完成してしまえば、誰の目にも触れることはない。でも、この点線がなかったら、あんなに真っ直ぐにミシンを走らせることはできなかった。動いた時にふんわりと広がってほしいスカートのギャザーも、体にぴったりフィットさせるための背中のダーツも、全部この水色の線が正確な位置を教えてくれたからこそ、思い通りの形になったのだ。

りん本人と「水を含んだ綿棒と、青い点線が教えてくれる見えない軌跡」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚

表には絶対に出ないけれど、私を正しい方向に導いてくれる、とっても頼もしい道しるべ。綿棒を動かしながら、ふと、日々の見えない準備もこれと同じだなって思った。

朝5時に起きて、まだ薄暗い部屋の中で一人、ステップの軌道を確認する時間。鏡の前で、どの角度から見たら一番笑顔がキラキラして見えるか、首の傾げ方を何ミリ単位で研究する時間。発声練習で、なかなか思い通りに出ない高音のフレーズを何度も何度も繰り返す、地道で泥臭い作業。

ステージの上や画面越しにみんなと会う時には、そんな汗だくの姿や、上手くいかなくて悔しがっている顔は見せない。みんなには、いつも元気で前向きな私を見てほしいから。でも、その「裏側の時間」で引いた見えない線があるからこそ、本番では迷わずに、思いっきり自分のパフォーマンスができる。どこに足を置けば一番綺麗にターンできるか、見えない線が私を正しい場所へと導いてくれるのだ。

誰にも見せない準備の時間は、時々すごく地味で、一人ぼっちに感じることもある。でも、水色の線を引き直すように何度も何度も練習を繰り返すことで、みんなの前に立つ時の私がブレずに、しっかりと立てる。そう思うと、この静かなインク消しの時間も、毎朝の孤独な練習時間も、なんだかすごく愛おしくて、大切なものに思えてくる。

見えない準備が作ってくれた、一番綺麗なシルエット

コップの水を取り替えながら作業を続けること数十分。最後の一本、襟元の裏側に残っていた青い線を消し終えると、コーデュロイの生地が、どこから見ても綺麗なマスタードイエロー一色になった。水分を含んで色が濃くなっていた部分も、少し時間が経てばすっかり乾いて、ふかふかの元の手触りに戻ってくれる。誰にも見せない準備と片付けの時間が終わって、いよいよみんなに届ける準備が整った合図だ。

消えてしまった水色の軌跡は、もうどこにも見当たらない。でも、その線が導いてくれた美しいシルエットは、この衣装の形の中にちゃんと残っている。早くこれを着て、みんなの前でくるっと回ってみたいな。きっと、水色の線が教えてくれた通りに、想像以上に綺麗な広がり方をしてくれるはず!

机の上を綺麗に拭き上げて、完成したばかりの衣装を木製のハンガーにかける。少し離れたところから眺めてみると、秋らしい深みのある色が、部屋の空気まで明るくしてくれているみたいだった。

窓の外を見ると、いつの間にかすっかり夕暮れ時になっていて、空がオレンジ色から藍色へとグラデーションを描いていた。遠くから、夕ご飯の支度をするようなおいしい匂いが風に乗って運ばれてくる。でも、私の心の中は、スポットライトを浴びているみたいに明るくてぽかぽかしている。

見えない道しるべがくれた自信を胸に、明日はもっともっと大きな笑顔をみんなに届けられそうな気がする。ハンガーで揺れる真新しい衣装の裾をそっと撫でて、「明日からよろしくね」と小さく声をかける。誰にも見せない準備の時間が、私をまた少しだけ強くしてくれた。そんな秋の夕暮れの、静かでとびきり幸せな時間。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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