この記事の要約
秋の風が心地よい休日の朝、実家から届いた段ボールの中から小学生の頃に作ったアイドルの切り抜き帳を見つけました。当時はフリルの衣装や可愛い髪型ばかり追いかけていたけれど、今ページをめくると、マイクを握る力強い指先や視線の配り方にばかり目がいきます。憧れのキラキラが魔法ではなく、日々の積み重ねだと知った今の私が感じる、静かなワクワクと決意を綴ります。
秋の風が通り抜ける朝と、ガムテープの匂い
9月も後半に入り、窓を開けるとひんやりとした秋の風が部屋を通り抜けるようになりました。休日の朝7時。いつもならもうステップの練習を終えている時間ですが、今日はちょっと予定を変更して、部屋の片付けからスタートです。冷たいフローリングを素足で歩きながら、クローゼットの奥から引っ張り出してきたのは、実家から送られてきたままになっていた一つの段ボール箱でした。

これから寒くなる季節に向けて、モコモコのルームウェアを探そうと思ったのです。ビリビリとガムテープを剥がすと、かすかに実家の押し入れの匂いと、母がいつも使っているフローラル系の防虫剤の香りがしました。北海道の雪深い町にある、私の小さな部屋の匂い。懐かしさに深呼吸しながら中を探ると、フリースやセーターの下からひょっこり顔を出したのは、予想もしていなかった分厚いノートでした。
それは、私が小学生の頃に夢中になって作っていたアイドルの切り抜き帳でした。表紙には、当時お小遣いを握りしめて文房具屋さんで買った、ぷっくりと膨らんだ星型のシールが所狭しと貼られています。角のほうはもう粘着力が弱くなっていて、ペラペラと剥がれかけているのを見ると、なんだか時間の流れを感じてふふっと笑ってしまいました。
不器用なハサミの跡と、ピンク色の熱量
パラパラとページをめくると、色褪せた紙の匂いと一緒に、当時の熱量がブワッと押し寄せてきます。テレビや雑誌で見て「絶対にこうなるんだ!」と憧れていたアイドルたちの姿が、不器用なハサミの跡とともにスクラップされていました。真っ直ぐ切れていなくて、背景がギザギザになっているところも、なんだか急いで夢をかき集めていたあの頃の私らしいです。
余白には、ピンクやオレンジのキラキラしたペンで「このフリルのボリュームが最高!」「ツインテールに大きなリボンが可愛い!」と、ぎっしりコメントが書き込まれています。あの頃の私は、テレビの向こう側にある目に見える華やかさや、お姫様のような衣装にただただ心を奪われていたんです。雪がしんしんと降る静かな町で、このノートを開いている時だけは、私も眩しいステージの真ん中にいるような気がしていました。
久しぶりに見る憧れの姿に胸をときめかせながら、じっくりと写真を見つめ直してみました。すると、不思議なことに気づいたんです。今の私が自然と目で追っているのは、華やかなフリルの裾でも、完璧にセットされた髪型でもありませんでした。
キラキラの裏側にある、マイクを握る指先の力強さ
視線が止まったのは、激しい振り付けの最中であるはずなのに、しっかりとファンの方を見据えている瞳の奥の光。そして、マイクを握る指先の関節が白くなるほどの力強さでした。華奢な体で大きなステージの端から端まで走り回りながら、それでも絶対に歌声をブレさせないための、確かな覚悟のようなものが一枚の写真からひしひしと伝わってきたんです。

昔の私は、アイドルが身にまとっているものを「魔法」だと思っていました。キラキラした粉を振りかければ、誰でもあんな風に輝けるのだと本気で信じていたんです。でも、毎朝5時に起きてステップを踏み、上手くいかなくて何度も同じカウントを繰り返す今の私には、その魔法の正体がわかります。
どんなに汗をかいても笑顔を崩さないための体力も、ターンをした時に一番綺麗に見える衣装の広がり方も、すべては数え切れないほどの反復練習と、見えないところでの工夫の積み重ねでできている。母と一緒に夜遅くまでミシンを踏んで、裏側の縫い目に四苦八苦しているからこそ、華やかなステージの裏側に隠された途方もない努力の跡が、手に取るようにわかるようになりました。
魔法の正体を知った今の私が、これから向かう場所
魔法の正体が汗と地道な努力だと知った今、スクラップブックの中で微笑む彼女たちは、昔よりもっとずっと眩しくて、カッコよく見えます。現実を知って夢から覚めるのではなく、現実を知ったからこそ、その夢の輪郭がよりくっきりと、力強く浮かび上がってきたような感覚です。
画面越しにファンの方へ笑顔を届けることの難しさと、それ以上の大きな喜びを知った今の私だからこそ、このノートに詰まっている本当の凄さがわかります。色褪せたノートをそっと閉じて、胸の前でギュッと抱きしめてみました。見ている場所や感じ方は大人になったけれど、根本にある「私も絶対にこうなりたい!」というワクワクする気持ちは、5歳の頃から何一つ変わっていません。
むしろ、道筋が見えてきた分、もっともっと心が弾んでいます。窓の外を見ると、すっかり高く澄み渡った秋の空が広がっていました。今日はいつもより気合いを入れて、とびきり元気なステップを踏めそうです。まずは、鏡の前で一番の笑顔を作るところから始めてみようと思います。
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