この記事の要約

毎朝のダンス練習の後、SNSに投稿する動画を選ぶ時間。いつもなら完璧に踊れたテイクを選ぶ私が、今日はターンでバランスを崩し、前髪を振り乱して必死にリカバリーする不格好なテイクに心惹かれました。完璧な笑顔だけじゃない、泥臭くもがく熱量も今の私の一部。昨日とは違う選択をした清々しい朝の記録です。

スマートフォンの画面で並走する二つのダンス動画

朝5時から始まる日課は、静まり返った部屋で音楽を流し、ひたすらステップを踏み続けること。窓の外がまだ薄暗い時間帯から、スニーカーの底が床を擦るキュッという音だけが響いています。何十回と同じ曲を繰り返し、納得がいくまでカメラを回し続ける。今朝もそんな風にして、みっちり2時間の練習を終えたところでした。

りん本人と「おでこに張り付いた前髪と、ゴミ箱に入れなかったテイク3」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

窓の外はすっかり明るくなり、秋特有の澄んだ空気が部屋の中に満ちています。床にペタンと座り込み、まだ熱を持っているスマートフォンを手に取りました。画面には、今日の成果として四つの動画ファイルが並んでいます。いつものルーティンなら、この中から一番動きが良くて、一番笑顔が輝いているものをSNSにアップします。

今日の有力候補は二つありました。一つ目は、最初から最後までノーミスで踊り切り、カメラの向こうにいる人たちへ向けてバッチリとウインクまで決めたテイク1。そして二つ目は、中盤の激しいターンでわずかにバランスを崩しかけ、なんとか持ち直したものの、最後は息が上がってしまったテイク3です。

昨日までの私なら、迷うことなくテイク1を選んでいました。アイドルとして発信する以上、見てくれる人には一番元気で、一番完璧なパフォーマンスを届けたい。それが絶対のルールだったし、失敗している姿を見せるのは恥ずかしいことだと思い込んでいたからです。でも今朝は、なぜかテイク3のサムネイルから目を逸らすことができませんでした。

予定外のリカバリーと、不格好な数秒間

テイク1とテイク3を、何度も交互に再生してみます。テイク1の私は、まるで振り付けの教科書のように正確で、笑顔も一切崩れません。安心感があるし、我ながらよく踊れていると感心します。でも、次にテイク3をフルスクリーンで再生すると、そこには全く違う私が映っていました。

問題のシーンは、曲のテンポがグッと上がるサビの手前です。ターンの着地で右足の踏み込みが甘くなり、ほんの一瞬だけ身体がグラッと傾きました。画面の中の私はハッとした顔をして、それでも音楽は止まってくれないから、強引に次のステップへと身体を捻り込んでいきます。

その無茶な動きのせいで、スプレーでしっかり固めたはずの前髪が崩れ、汗ばんだおでこにペタッと張り付いてしまいました。最後の決めポーズも、いつものような余裕たっぷりの笑顔ではなく、口を大きく開けてハァハァと息をしている、なんとも間抜けな表情です。

アイドルとしての完成度で言えば、間違いなく落第点でしょう。昨日までの私なら、「うわあ、前髪ボサボサじゃん! 没、没!」と一人でツッコミを入れながら、即座にゴミ箱アイコンをタップしていたはずです。それなのに、今日はその不格好な数秒間が、なぜかとても愛おしく思えたのです。

完璧な笑顔の裏側にある、泥臭い熱量

画面の中で必死にリカバリーしようとする姿を見つめながら、昔のことを思い出していました。札幌のオーディションで落選して、それでも審査員の方にかけてもらった言葉を胸に、毎朝早く起きて猛特訓を始めた頃のこと。あの頃は、とにかく「完璧な笑顔」を作ることばかり考えていました。

りん本人と「おでこに張り付いた前髪と、ゴミ箱に入れなかったテイク3」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚

どんなに苦しくても、どんなに不安でも、絶対に表には出さない。キラキラした笑顔だけを届けるのが、本物のアイドルなんだって信じていたのです。もちろん、その気持ちは今も変わりません。私の笑顔で誰かが元気になってくれるなら、それが何よりの喜びです。

でも、完璧じゃない姿を見せることは、本当にいけないことなのでしょうか。テイク3の私は、転びそうになっても絶対にリズムを手放そうとしませんでした。不格好でも、前髪が乱れても、最後まで踊り切るんだという執念みたいなものが、画面越しにヒリヒリと伝わってきます。

それは、綺麗に整えられたテイク1にはない、生々しい熱量でした。もしかしたら、この泥臭い一生懸命さも、誰かの背中を押すエネルギーになるのかもしれない。「上手くできなくても、必死に食らいついている姿」に勇気をもらうことって、きっとあるはずだから。そう思えたのは、今日が初めてでした。

送信ボタンを押した先に見える新しい朝

ずっと「見せたい姿」の枠の中で完璧を演じようとしていたけれど、そこからはみ出した不格好な私も、丸ごと肯定してあげられるようになった気がします。それは、昨日までの私にはなかった、わずかな、でも確かな変化でした。

迷いはすっかり消えていました。私はテイク3を選択し、投稿画面を開きます。どんな言葉を添えようか短く考えてから、「今日は特別なおまけ付き! 途中でヒヤッとしたけど、気合いで持ち堪えました! 汗だくの私もよろしくね!」と打ち込みました。

送信ボタンをタップすると、青いゲージが画面を滑り、無事にアップロードが完了します。画面が切り替わった瞬間、ふうっと大きく息を吐き出しました。いつもと違う選択をしたからといって、突然何かが劇的に変わるわけではありません。それでも、私の中にある重たい鎧がひとつ外れたような、不思議な身軽さがありました。

スマートフォンをローテーブルに置き、立ち上がって大きく伸びをします。汗ばんだTシャツが秋の朝の空気に触れて、ひんやりと心地よい温度を運んできました。明日の朝は、どんな私が画面に映るでしょう。完璧に踊れる日もあれば、また転びそうになる日もあるはずです。でも、そのどれもが今の私を作っている大切な欠片なのだと、今は胸を張って言えます。そんな清々しい余韻を抱きながら、私は冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出しました。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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