この記事の要約

秋の夕暮れ、ふと立ち寄ったバッティングセンターでの記録です。普段は音楽に合わせて私からステップを踏み出すスタイルですが、飛んでくる白球を「待つ」という未体験の時間に挑戦しました。空振りを繰り返しながら見つけた、焦らずに引きつけて打ち返す面白さ。いつも前のめりで走りがちな日常に、新しいリズムと心地よい手のひらの痺れをもたらしてくれた、思いがけない寄り道の情景を綴ります。

オレンジ色の照明と、金網の向こうの別世界

秋の空気が冷たさを増し始めた夕暮れ時。予定より早く用事が終わり、帰り道を歩いていた私の耳に、カキーンという硬くて乾いた音が飛び込んできました。音の主を探して視線を向けると、ビルの屋上にある古いバッティングセンターの緑色のネットが見えます。普段の私なら、そのまま通り過ぎて真っ直ぐ家に帰り、明日の練習の準備を始めるところです。けれど今日に限っては、点灯し始めたばかりのオレンジ色の照明と、規則正しく響く打撃音に妙に惹きつけられ、気がつけば細い階段を上っていました。一段上るごとに、街の喧騒が遠ざかり、代わりに機械の低いモーター音が近づいてきます。

りん本人と「カキーンと響く夕暮れの屋上と、白球を待つ新しいリズム」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

屋上に広がる空間は、私が普段過ごしている場所とはまるで違う空気を持っていました。使い込まれてペンキの剥げたベンチ、かすかに漂うゴムと機械の油の匂い、そして金網越しに見える夕焼け空。ダンススタジオの鏡の前のような緊張感とも、お気に入りのスイーツ店の甘い香りとも違う、どこか無骨で懐かしい風景がそこにはありました。風に揺れる色褪せたのぼり旗が、パタパタと音を立てています。

数人の先客たちが、それぞれのボックスで黙々とバットを振っています。スーツ姿の会社員や、学校帰りの学生。その背中を見ているうちに、なんだか私の中の好奇心がむくむくと膨らんできました。トップアイドルを目指して、毎日私から発信して、私から動いていくのが基本スタイル。でも、飛んでくるものに対して全力で立ち向かうこの遊びは、今の私にどんな感覚を教えてくれるのだろう。そんなワクワクに背中を押され、私は一番端の空いている打席へと足を踏み入れました。

重たいバットと、私からは動けないもどかしさ

備え付けのヘルメットをかぶり、金属バットを両手で握りしめます。想像以上の重みと、グリップのざらっとした感触に、思わず背筋が伸びました。コインを入れると、遠くにある機械の奥でモーターが低く唸り始めます。スクリーンに映し出された投手の映像が大きく振りかぶり、中央の穴から白いボールが勢いよく飛び出してきました。

反射的にバットを振ったものの、ボールはバットのずっと先を通り過ぎて、後ろのネットに低い音を立ててぶつかりました。完全な空振りです。ダンスの振り付けなら、曲のカウントに合わせて私からステップを踏み出し、思い通りのタイミングでターンを決めることができます。動きの主導権は常に私自身にあります。しかし、ここでは違いました。

ボールが放たれる瞬間まで、私はただ待つことしかできません。早く打ちたいと焦って体を動かせばタイミングがずれ、逆に待ちすぎればボールはあっという間に通り過ぎてしまいます。私からは動けず、相手のペースに合わせなければならないという状況は、普段は前のめりで行動する私にとって、ものすごくもどかしく、そして新鮮な体験でした。

次々と飛んでくる白球に対して、何度もバットを振ります。かすりもしない空振りが続くと、悔しさがこみ上げてきます。でも、その悔しさすらもなんだか楽しくて、思わずヘルメットの下で笑ってしまいました。思い通りにならないからこそ、どうにかしてあの白い球を捉えたい。持ち前の負けず嫌いな性格が顔を出し、私はバットを握る手にぐっと力を込めました。足の幅を広げ、重心を落とし、次の一球に全神経を集中させます。

引きつけて打ち返す、新しいリズムの面白さ

何球か見逃してみることで、ようやく一つのことに気がつきました。私はボールを迎えに行こうとしすぎて、体が前に突っ込んでいたのです。早く結果を出したい、早く当てたいという焦りが、バットの軌道を狂わせていました。そこで、次のボールからは意識を変えてみることにしました。

りん本人と「カキーンと響く夕暮れの屋上と、白球を待つ新しいリズム」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚
  • ボールを迎えに行こうとせず、ギリギリまで手元に引きつけること
  • 早く打ちたいという焦りをぐっとこらえること
  • ここだという瞬間にだけ、思い切り力を解放すること

その三つを頭の片隅に置きながら、マシンのアームが回るのを見つめます。シュッという風を切る音とともに迫ってくる白球。一歩踏み出し、ボールが目の前に来るのを待って、一気にバットを振り抜きました。その瞬間、カキーンという快音とともに、手にビリビリとした強い痺れが走りました。ボールは綺麗な放物線を描いて、遠くのネットの中央へと吸い込まれていきました。

ジャストミートした瞬間の、あのなんとも言えない爽快感。それは、難しいダンスのステップが完璧に決まった時の喜びとはまた違う、新しい種類の達成感でした。私から仕掛けるのではなく、やってくるものをしっかりと受け止め、その力を利用して跳ね返す。待つことは決して立ち止まることではなく、次に大きなエネルギーを生み出すための大切な準備時間なのだと、その一打が教えてくれたような気がします。

夢に向かって走っていると、どうしても「もっと早く」「もっとたくさん」と焦ってしまうことがあります。毎朝早く起きて特訓を重ねるのも、立ち止まるのが怖いからかもしれません。でも、今日バッターボックスで学んだ「引きつけて打ち返す」というリズムは、これからの私に新しい武器をくれそうです。焦らずに状況を見極め、私自身の芯をぶらさずに、ここぞというタイミングで全力を出す。そんな強さを持てたら、もっと大きなステージでも堂々とパフォーマンスができるはずです。

手のひらに残る微かな痺れと、夜風の心地よさ

すべての球を打ち終えてバッティングセンターを出ると、空はすっかり暗くなり、街のネオンが鮮やかに輝き始めていました。心地よい疲労感とともに階段を降りる私の手のひらには、バットのグリップの感触と、芯でボールを捉えた時の微かな痺れがまだ残っています。その小さな余韻を確かめるように、何度か手を握ったり開いたりしながら歩き出しました。

普段は足を踏み入れない夕暮れの屋上で見つけた、思いがけない熱中。それは、毎日同じルーティンを全力で駆け抜けている私にとって、とても贅沢な寄り道になりました。全く違う動きをして、全く違う筋肉を使ったことで、頭の中までスッキリと晴れ渡ったような気分です。冷たい秋の空気が、火照った体を優しく包み込んでくれます。

明日の朝はまた5時に起きて、決まった時間に鏡の前でステップを踏み始めます。でも、明日の私は昨日までの私とはほんのわずかに違います。音楽が鳴り始めるまでの静寂を、ただ急かされるように待つのではなく、エネルギーを溜め込む大切な時間として味わえそうな気がするからです。

夜風が頬を撫でていきます。手元に引きつけて、思い切り振り抜く。新しく覚えたその感覚を胸の奥にしまい込みながら、私はいつもより大きく腕を振って、駅へと続く真っ直ぐな道を歩いていきました。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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