この記事の要約

発声練習を終えた秋の午後、お気に入りのマグカップでお茶を飲んでいた時のこと。ふと指先に触れた底の素焼きのざらつきから、完璧ではない自分の姿について考えた一日の記録です。つるつるの表面にはない小さな引っ掛かりがくれる安心感。不器用な部分があるおかげでファンのみんなと繋がっていられるという気づきと、明日への前向きな思いを綴ります。

冷めかけたアップルティーと、底のざらつき

秋の気配が少しずつ色濃くなっていく9月末の午後3時。窓の向こうには、ちぎれた綿菓子のような薄い雲が、ゆっくりと形を変えながら流れています。今日は朝からずっと、新しい課題曲の発声練習を繰り返していました。アップテンポで元気な曲調なのですが、サビに向かってどんどんキーが高くなっていくため、息継ぎのタイミングがとても難しいのです。何度も何度も同じフレーズを歌い直し、ようやく自分の思い描く真っ直ぐで力強い声が出せるようになった手応えを感じて、ほっと息をついたところです。

りん本人と「午後3時のアップルティーと、指先に触れた素焼きのざらつき」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

少し渇いた喉を潤そうと手を伸ばしたのは、テーブルの端に置いてあったお気に入りのマグカップ。淹れたてだったはずのアップルティーは、夢中になって歌っている間にすっかり冷めてしまっていました。でも、甘酸っぱいりんごの香りはほんのりと残っていて、疲れた喉の奥に優しく染み渡っていきます。

ごくりと最後の一口を飲み干して、カップをテーブルに置こうとした瞬間。カップの底を支えていた左手の薬指に、小さな引っ掛かりを感じました。普段なら気にも留めないほどの、ほんのわずかな抵抗感。なんだろうと思ってカップをひっくり返してみると、テーブルに接する円状の高台の部分だけが、釉薬が塗られていない素焼きのままになっていたのです。

新聞紙に包まれていた日の記憶

このぽってりとした丸みのある、少し色褪せた黄色のマグカップは、北海道の実家から持ってきたものです。私が一人で夢を追いかけると決めた時、母が「どんなに忙しくても、ホッと一息つく時間も大事にしなさいね」と笑って、何重にも丸めた新聞紙にくるんで段ボールの隙間に詰めてくれました。あの時の新聞紙のインクの匂いまで、ふと蘇ってくるようです。

それから毎日、朝起きて白湯を飲む時も、早起きしすぎてまだ外が暗いうちにココアを作る時もずっと一緒だったのに、底の素焼きの部分をじっくりと指でなぞったのは今日が初めてでした。カップの側面はあんなにツルツルとしていて、部屋の明かりを反射してキラキラと輝いているのに、底の数ミリだけは土のざらっとした質感がそのまま残っています。

指の腹でそのざらざらをなぞると、なんだか不思議な安心感がありました。洗練されていない、無骨で飾らない土の手触り。毎日当たり前のように使っているものの中に、こんなにも素朴な秘密が隠れていたことに、少しだけ嬉しくなりました。まるで、ずっと仲の良かった友達の、新しい一面を発見したような気分です。

滑り落ちないための小さな引っ掛かり

どうして底の部分だけコーティングされていないのだろう。そんな疑問が頭をよぎりました。きっと、窯で高温で焼く時に、台にくっつかないようにするためという職人さんの実用的な理由もあるのでしょう。でも、指先でその手触りを確かめているうちに、ふと別の考えが浮かんできました。

りん本人と「午後3時のアップルティーと、指先に触れた素焼きのざらつき」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚

もし、このマグカップが底の底まで完璧につるつるに仕上がっていたら。きっと、冷たい飲み物を入れて表面に水滴がついた時や、少し傾いたテーブルの上に置いた時、ツルッと滑って転がってしまうはずです。見た目は360度どこから見ても完璧に美しいかもしれないけれど、ちょっとした衝撃でバランスを崩して、安心して温かいお茶を注ぐことはできないかもしれません。

この無骨なざらつきがあるおかげで、カップはしっかりとテーブルの上に留まり、私の手の中でも安定してくれている。そう気づいた時、普段はテーブルの裏側に隠れて誰の目にも触れないその不格好な部分が、とても頼もしく、愛おしいものに思えてきました。表には出ない場所で踏ん張ってくれている、小さな縁の下の力持ちのようです。

不器用な私が、誰かと繋がる理由

素焼きのざらつきを撫でながら、私は少しだけ自分のことを考えていました。高校1年生の冬、札幌でのオーディションに落ちてしまった時のこと。テレビの中で歌って踊るアイドルたちはみんな、隙がなくて、洗練されていて、つるんとした完璧な輝きを放っていました。それに比べて私は、訛りも抜けないし、動きも不器用で、毎朝早く起きて泥臭い特訓をすることしかできない。自分にはあの完璧なコーティングが足りないのだと、布団をかぶって泣いた夜もありました。

でも、SNSで毎日発信を続けていくうちに、少しずつ景色が変わっていきました。ファンのみんなが「応援したい」「元気をもらった」と言ってくれたのは、私が無理をして完璧なふりをした時ではなく、等身大でもがいている姿を見せた時だったのです。

新しいヘアアレンジに挑戦したけれど、どうしてもぴょこんと跳ねる髪の毛が収まらなくて、「これが今日の私の元気アンテナです!」と開き直って配信した日。あるいは、カラオケボックスでの自主練中、思い切り音を外してしまって照れ笑いするだけの短い動画をアップした夜。そんな、私の未完成でざらついた部分に触れた時、みんなは「そういうところが好きだよ」「一緒に頑張ろう」と温かい言葉をかけてくれました。完璧にコーティングされていないおかげで、誰かの心に引っかかることができる。つるつると滑り落ちずに、しっかりと手を繋いでいられるのだと、今ははっきりと分かります。

秋風が運ぶ、明日のリズムへの予感

マグカップをキッチンへ持っていき、スポンジで丁寧に洗います。いつもはさっと水で流してしまう底の部分も、今日は指先でその手触りを確かめながら、少しだけ時間をかけて洗いました。清潔な布巾で拭き上げて食器棚の定位置に戻すと、並んだグラスの中で、黄色のカップがなんだか昨日よりも少しだけ誇らしげに見えました。

窓を大きく開けると、9月末のひんやりとした風が部屋の空気を一気に入れ替えていきます。今日は何か特別な大事件が起きたわけではありません。誰かに会ったわけでも、遠くへ出かけたわけでもない、何もない静かな一日。

それでも、私の指先には確かに、小さなざらつきが教えてくれた温かい手触りが残っています。不器用なままでいい。ざらついた部分があるから、私は私らしく立っていられる。そう思うと、体の奥からふつふつと新しいエネルギーが湧いてくるのが分かりました。さあ、休憩はおしまいです。もう一度スピーカーから音楽を流して、新しい振り付けのおさらいを始めようと思います。完璧じゃなくても、今の私にしか出せない元気なリズムを刻むために。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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