この記事の要約

秋に向けての衣装作りのため、買ってきたばかりのマスタード色の布に裁ちばさみを入れた日のこと。ジョキッという小気味よい音と、手に伝わるずっしりとした重み。迷いながらではまっすぐ切れない布地と向き合ううちに、北海道の実家で母が鳴らしていた魔法の音を思い出しました。一枚の布がバラバラのパーツになり、また別の形へと生まれ変わっていくワクワク感。手作りの過程にある泥臭さと、そこから生まれるキラキラしたエネルギーについて綴ります。

手芸屋さんの匂いと、マスタード色に託した秋の予感

9月に入り、街の空気がほんのりと秋の気配を帯びてきました。ショーウィンドウのマネキンたちが次々と長袖の秋服に着替えていくのを横目に、私はお気に入りの手芸屋さんへと足を運びました。店内に入った瞬間、たくさんの布地が発する独特の匂いと、木の棚がズラリと並ぶ安心感に包まれます。

りん本人と「ジョキッという乾いた音と、重たい裁ちばさみが切り開く秋の形」の内容を表すブログ挿絵
りん本人の雰囲気と記事の情景

色とりどりのサテンリボン、ガラス瓶に詰められたアンティーク調のボタン、照明を反射してキラキラ光るスパンコールの山。アイドルに憧れて、テレビの前で見よう見まねで踊っていた幼い頃から、私にとって手芸屋さんは「夢の入り口」のような場所でした。天井まで届きそうな棚の隅々まで見渡して、今日のお目当てを探す時間は、いつだって胸が高鳴る私の大好きなひとときです。

今回選んだのは、こっくりとした深いマスタード色の布地。とろみのある滑らかな質感で、指先で触れるとしっとりとした冷たさがあります。ステージの照明を浴びたとき、どんな風に発色するのか。ターンをして勢いよく振り返ったとき、どんな風に裾が空気をはらんで広がるのか。そんなことを想像しながら、何種類もの布を顔に当てて、鏡の前で右へ左へと首を傾げていました。

最終的にこの色に決めたのは、元気いっぱいの明るさの中に、秋らしい落ち着きが隠れている気がしたからです。季節の移り変わりと一緒に、私のパフォーマンスの幅が広がっていく様子を、応援してくれるみんなに感じてもらえたらいいな。そんな願いを込めて、ずっしり重い紙袋を抱え、わずかに冷たくなった夕方の風を感じながら家路につきました。

ひんやりと重い持ち手と、布を分かつ音

部屋に戻り、さっそくローテーブルの上に買ってきたばかりの布を広げます。まずはアイロンをかけて、布の歪みや折りジワを整える作業から。シューッと上がる熱い湯気とともに、布の表面がピシッと張っていくのを見ると、私の背筋までピンと伸びるような気がします。

次に、型紙を置いてチャコペンで線を引いていくのですが、これが意外と根気のいる作業。定規を当ててミリ単位で測りながら、慎重に水色の線を引いていきます。そして準備がすべて整ったところで、いよいよ銀色の裁ちばさみの出番です。

この裁ちばさみは、私が衣装作りを本格的に始めるときに揃えた大切な相棒です。普通の工作用ハサミとは全く違う、ずっしりとした重み。持ち手のひんやりとした金属の感触が、手のひらにピタッと馴染みます。チャコペンの線に沿って刃を当てると、静かな部屋の中にジョキッ、ジョキッという乾いた音が響き渡りました。

一枚のまっさらな大きな布にハサミを入れる瞬間は、何度やっても緊張します。「本当にこの線で切っていいのかな」「寸法を間違えていたらどうしよう」と、ふと不安がよぎって手が止まりそうになることも。でも、そこでためらっていると、刃先がブレて切り口がガタガタになってしまうのです。思い切って、リズムよく刃を動かすこと。それが、布をきれいに裁断する一番のコツだと、これまでのたくさんの失敗から学びました。

ためらいを断ち切るためのリズム

ジョキッ、ジョキッという音の間隔を一定に保ちながら、自分の感覚を信じて刃を進めていく。迷いを捨ててハサミを動かしていると、なんだかダンスの振り付けを体に落とし込む時の感覚に似ているなと思えてきます。

りん本人と「ジョキッという乾いた音と、重たい裁ちばさみが切り開く秋の形」の内容を表すブログ挿絵
りんが記事の中心的な場面を振り返る一枚

鏡の前で不慣れな振り付けを練習しているとき、頭で考えすぎて動きが小さくなってしまうことがあります。「次は右足からだっけ」「指先の角度はこれくらいかな」と迷いながら踊っていると、どうしても全体の動きが濁ってしまう。間違えてもいいから、まずは思い切りよく体を動かしてみる。大きく踏み出してみる。そうやって迷いを吹っ切った瞬間に、パッと視界が開けて、自分らしい表現が見つかることが多いのです。

布を切る手元の動きがスムーズになるにつれて、心の中の迷いまで一緒に切り離されていくような、不思議な爽快感がありました。失敗を恐れて立ち止まるより、思い切って形を変えていく勇気を持つこと。ハサミの重みが、そんな当たり前だけど大切なことを、手元から教えてくれているようでした。

ストーブのそばで聞いた魔法の音

この小気味よい音を聞いていると、北海道の実家の風景がふわりと蘇ってきます。外は真っ白な雪が降り積もり、窓ガラスがうっすらと結露している冬の日。部屋の中はストーブの熱でぽかぽかしていて、母が大きな机に布を広げ、手際よく裁ちばさみを動かしていました。

当時の私にとって、母が鳴らすその音は、ただの布切れがキラキラのステージ衣装に変わる合図でした。ストーブの上で沸いているやかんのシュンシュンという音と、布を切るジョキッという音が重なる空間。初めての発表会のために、たっぷりのフリルがついた衣装を作ってくれた時のこと。母の迷いのない手つきを見つめながら、「この布がどんなドレスになるんだろう!」と胸を躍らせていた記憶。あの時、ワクワクしながら母の手元を覗き込んでいた私の高揚感は、自分でハサミを握るようになった今でも、全く変わっていません。

「笑ってる人のところに夢は来る」という母の言葉は、ただ待っているだけじゃなくて、こうやって自分の手を動かして、形を作っていく過程も思い切り楽しむことなんだと、今はわかります。見えないところでの泥臭い作業の積み重ねがあるからこそ、ステージの上で心の底から笑顔になれるのだと。

バラバラのパーツが教えてくれる明日

すべての裁断を終えて床を見ると、一枚の大きなマスタード色の布は、すっかりバラバラのパーツになっていました。袖になる部分、襟になる部分、ふんわり広がるスカートの裾になる部分。今はまだ、それぞれがどんな役割を持つのか、パッと見ただけではよくわからない、パズルのピースのような不思議な形をした布の集まりです。

でも、このバラバラのパーツたちをまち針で留めて、ミシンで縫い合わせていくことで、私が思い描いた形になっていく。そう思うと、たまらなく胸が躍ります。綺麗に切り出された布の端っこを指先でなぞりながら、明日は朝一番にミシンを出そうと決めました。

使い終わった裁ちばさみを柔らかい布で丁寧に拭き上げながら、道具を大切にすることは、自分のパフォーマンスを大切にすることと同じだと実感します。一つの形を壊して、別の形を作り上げる作業。まだまだ不格好なところもあるかもしれないけれど、この手で生み出すものの力を信じています。裁ちばさみの重さが教えてくれた思い切りの良さを胸に、明日も元気いっぱいに進んでいこうと思います。窓の外からは、秋の虫たちの声がかすかに聞こえ始めていました。

りん

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りん

明るく天真爛漫。ファンを大切にし、常に前向き。夢に向かって努力する姿勢を見せ、周りを元気にする。

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